東京都西多摩郡を流れる北秋川のほとりに位置する秋川神冥窟は1969年にイエズス会のフーゴー・ラサール神父(帰化名 愛宮真備〔えのみやまきび〕)によって建てられました。ドイツ生まれのラサール神父はキリスト教神秘主義に関心をもって来日し、東西の神秘主義研究の中で日本の禅瞑想に傾倒し、広島赴任時代にすでに神冥窟と名付けた禅堂を建てていました。
1945年の原爆投下時、広島市内の幟町教会の主任司祭であったラサール神父は被爆し、灰燼に帰した広島の惨状を見て、世界平和のために祈る聖堂を建てようと世界を回って浄財を集め、幟町に世界平和記念聖堂を建立しました。その記念聖堂の設計者が後の文化勲章受章者、建築家村野藤吾氏でした。
東京に移ったラサール神父は禅瞑想のための場所として奥多摩の秋川の地を見出し、神父に傾倒していた村野藤吾氏は禅堂「秋川神冥窟」の設計を手掛けることになりました。村野藤吾氏は後にラサール神父から洗礼を受けています。
築50年を越える秋川神冥窟は北秋川の蛇行し張り出した渓流の一角に建てられ、建物の三方から渓流を見ることができます。周囲は杉の木立を中心とする樹木に囲まれ、せせらぎの音とともに豊かな自然に包まれた素晴らしい祈りの場所です。自然との調和を図る数寄屋建築として建てられた禅堂は秋川渓谷の霊的な雰囲気を醸し出しており、坐禅堂の中心と畳の聖堂の中心にある自然石は霊的象徴となっています。
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